東京高等裁判所 平成11年(ネ)633号 判決
一 事情変更の原則が適用されるためには、控訴人が主張するように、<1> 契約成立時に当事者が基礎とした事情に変更があったこと、<2> 事情の変更が契約締結当時、当事者に予見不可能であったこと、<3> 基礎事情の変更が当事者の責めに帰すべからざる事由によること、<4> 事情変更の結果、当初の契約内容を維持することが信義則上著しく不当と認められることが必要である。
そこで検討するに、経済情勢の変動は、控訴人にとって予期しなかったことであるとしても、経済の変動は事業経営者として考慮に入れるべき事柄であって、予見不可能とまでは言い難い上、据置期間が経過すれば会員が預託金の返還を求めることができるのは会員の基本的な当然の権利行使であって、これを被控訴人が行使することが信義則に反するとは到底いえず、結局、本件全証拠によるも、事情変更の原則を適用して被控訴人の本件請求を阻止すべきほどの事情を認めることはできない。
二 預託金返還請求権はプレー権と共に、ゴルフ場会員権の主要な内容をなすものであるが、クラブ退会を前提とする点を除いては通常の金銭債権と同様の債権である。経済情勢の変動を含む諸般の事情によって、企業が債務超過又は支払不能となり又はそのおそれが生じたときは、和議法による和議などの法的倒産手続により法の定めるところに従って、債権者の多数決による和議条件の可決と裁判所の認可を得ることにより、債権者の個別的な同意を得ないでも、金銭債権を変更することができ、それによって倒産を回避することができる。このような手続によるときは、裁判所や整理委員等の監督や調査に服さなければならず、場合によっては経営者の責任が追及されることもあり得るが、債権者に譲歩を強いる代償としてやむを得ないことであるし、またそのような代価を支払うことによってのみ、権利減縮を求めることが正当化される。このような手続を経ることもなく、ゴルフ場経営者又は所有者の影響下にあるゴルフクラブ理事会の決議により、債権者の同意を得ることもなく、その有する金銭債権を安易に変更することは許されないのが原則である。いわゆるバブル期に預託金方式によって建設したゴルフ場の大半について、現に預託金返還が困難な状況にあるとしても、この理は変わらない。法の特段の定めがないのに、私権を権利者の意に反して勝手に変更してはならないのが鉄則であることをあらためて想起すべきである。
(高木新二郎 河本誠之 白石哲)